今江克隆のルアーニュースクラブR「見えないラン&ガン!? バスフィッシングの最先端・最強無双の技術」の巻 第1150回
TOP50第2戦東レソラロームCUP小野湖が閉幕した。
結果は、初日1尾のキーパーのみ、2日目ノーフィッシュとなり、44位予選落ちで自分の第2戦は終了した。
自分の試合詳細は、すでにブログで、見苦しい言い訳を記録として書き残しているので、興味のある方だけ読んでみてほしい。
そして、そのブログの最後に「自分の昨年からの不調の原因はハッキリ理解している」と書いていることについて、来年トーナメントプロ40周年、人生60周年を今の自分のトップトーナメントとの向き合い方を、今週は書いてみたいと思う。
アナログとデジタルのはざま
自分の昨年からの中途半端な成績の原因は、自分の今の釣りが「アナデジアングラー」と呼んでいる迷いの中にあるからに他ならない。
アナログとデジタルのはざま、すなわち一般アングラー目線に最も近いアナログスタイルの釣りと、真逆ともいえるデジタルデバイスを駆使した次世代デジタルスタイルの釣りのはざまで、どちらもつかずの中途半端な立ち位置にいることが、今の自分の試合結果に直結していることはまぎれもない。
先に今の日本の業界ビジネス事情から極論すれば、間違いなく「一般目線に近い釣りをしてトーナメントで活躍すること」がストレートにプロとしての価値を上げるだろう。
それは何も今に限ったことではなく、過去、トーナメントでの卓越した技術やルアーの発信、公表が一般アングラーの知識やスキルの向上に大きな影響を与え、結果、現在のバスフィッシングの隆盛に繋がってきたこともまぎれもない事実だ。
だが、ここ数年、まさに時代を変えたといっても過言ではない「ライブスコープ」の出現とともに、一般アングラーの釣り目線と、トーナメントアングラーの釣り目線に大きな乖離ができはじめた。
デジタル化による一般アングラーとの乖離
基本的に現在、TOP50プロのおよそ8割が設備費総額100万円は決して下らない「ライブスコープ」関連のデジタルデバイスを標準装備している。
さらに、この装備を活かすには当然ボートが必要で、同時にスポットロック付きのエレキやローター、電力消費の大きさから専用のリチウムバッテリーも必要となり、スペア機器も含めるとその付帯総額は電子デバイスだけで軽く200万円以上になるだろう。
一般アングラーが将来、何を目指すかにもよるが、人生をバス釣りに全て賭けるぐらいの強い意志がなければ、およそ現実離れした装備だ。
現在、バス釣り人口の8割を占めるといわれるオカッパリアングラーにとって、このデジタル装備を使ってトーナメントで圧倒的な好成績を残し続けたところで、何ら興味の対象にはならず、成績の要因が「ライブスコープ」であればあるほど、実際にバスを釣ったルアーやロッド、スポット、リグなどの価値は二の次で、一般アングラーに対して大きな影響も興味も与えないものになる……。
結果、幾度も優勝しても、幾度もウイニングルアーになっても、ルアーメーカーにトーナメント結果によるダイレクトフィードバック(売上向上)はさほど帰ってこず、ルアーメーカーはトーナメンターへのサポート価値に疑問を持ちはじめ、協賛スポンサーを降りたり、プロ契約を打ち切ったりという悪循環が、近年確実に起こりはじめている。
かつてのアナログ時代は、トーナメントで勝てばサポートメーカーの関連商品への売上貢献は極めてダイレクトで、その売上貢献の恩恵でプロ契約金額も高額になった。
そのトーナメントプロとサポートメーカーのWIN-WINの方程式が完全に崩れ始めた現在、トーナメントプロがこれからプロとして人生を生きていくうえで、どんなスタイルで、何を目指すべきなのか、そこに正直、迷いがあった。
自分は特に多くのメーカーからサポートを受ける選手でありながら、そのサポートメーカーのCEOでもあるという、両者真逆の立場からトーナメントを見てきただけに、この現実には葛藤があった。
「ライブスコープ」によるデジタルトーナメント時代の到来は、一般バス釣りとトーナメントの乖離、そしてトーナメントプロの孤立を際立たすだけで、正直、メーカーとして歓迎できる側面は少ない。
メーカー側の立場から見た自分の見解は、おおよそ多くのサポートメーカーの見解と大きく相違はないと思う。
だが、それはメーカーCEO今江克隆としての見解であり、プロトーナメンター今江克隆としての本心はまた別なのだ。
青木唯プロの釣りを初めて目撃
今回、予選落ちした決勝の朝、偶然にも通りがかった湖岸道路で、今回優勝した青木唯プロの「ライブスコープ」の釣りを初めて実際に目撃することになった。
自分とスタイルが違う彼のガチの釣りを第三者として客観的に見たのは初めてだが、そのあまりにも異次元過ぎるスタイルに、純粋にプロトーナメンターとして憧れと敬意の念しか受けなかったのだ。
それはリザーバー育ちの自分が、初めて20歳の時に琵琶湖に行って、まばゆいバスボートが琵琶湖の何もない超沖に浮かび、次々とロッドを曲げる風景を目の当たりにして、「何もないところからバスを釣る」という異次元世界を初めて知った時の憧れと尊敬の念を思い起こさせた。
沖まで浅く、ウィードや地形変化がある琵琶湖で、オフショアを魚探で探って釣るのは今や何の疑問もないだろうが、40年前、当時それは異次元だった。
そこから自分は、記録式魚探を駆使し琵琶湖のオフショアの釣りを次々と解明し、果てはウィードに埋もれたヨットマリーナのアンカーを厳冬期の減水時に3mの竹竿で湖底を突いて探し出し、GPSのない時代に山立(やまたて)を30~40ヶ所以上を同時記憶する練習を繰り返し、琵琶湖最強無双時代を作りあげた。
見えないラン&ガン!?
そして今、藤田京弥プロから始まったライブスコープ世代は、青木唯プロによってさらに強化され、まさに「ワカサギレイク無双状態」を再び実現しはじめている。
もはやそこに「ボトム」、「水深」という概念は存在しない。
自分の琵琶湖ブラインドアンカー撃ちの釣りが、アーチェリーの的撃ちみたいなものだとすれば、高原に放牧された牛の群れに付く1匹の狼をターゲットスコープ付きライフルで馬に乗りながら狙撃するようなスナイパーの釣り。
実際に目のあたりにした青木唯プロの動きは、衝撃的なものだった。
自分が勝手にイメージしていたフィネスでライトで、モニターとニラメッコの地味な粘りの釣りではない。
驚くほど速くボートを広範囲に移動させ、さらにワカサギの群れに付いたバスらしき画像を見つけた瞬間だろうか、エレキの逆転による驚異的な制動スキルでボートを瞬時に完璧に静止させ、数投内に仕留めていく。
そのボートスピードの速さ、釣りの速さ以上に、瞬時にボートを止めて静止する速さと正確さが驚異的で、まさに「見えないラン&ガン」を彷彿させた。
あとで本人に直接教えてもらったが、ルアーは「ヴィローラ4インチ」と、かなり大きく、さらに驚いたことにラインは7lb、2.7gのジグヘッドにG-niusスクリューネイルの3.5gを刺したヘビージグヘッドで次々と速射砲のように水深7~8mのワカサギの群れに付く大型バスを狙い撃ちしていたのである。
これはもはやフィネスなどではない。
バスにとってはまさに「並走しながら見えない死角から撃ってくるスナイパー」であり、狙撃されたバスは、それに気づいていないためか一発で喰ってくると青木唯プロは教えてくれた。
青木唯プロの釣り、ライブスコープ・テクニック、その本質とは?