Xを名乗る以上…
EG X。ラグゼエギングロッドの頂点に君臨するフラッグシップモデルである。
何が違うのか? すべてが違う。一言でいえば、素材が違う。
トレカT1100Gをブランクスマテリアルに使用し、ガイドは超軽量チタントルザイトガイド。中空構造のリザウンドグリップが感度と軽さを向上させている。
しかし、単に最高の素材を用いただけではない。むしろ、こういった素材を使用し、現存するエギングロッドで最高・最強のものを具現化するべく開発されたエギングロッドである。それゆえ、開発者の対峙する気構えが違う。
「この先、数年間、時代をリードできるものにしなければならない」
やれることはすべてやる。納得の行くまでやり尽くす。誰も気づかない微細な部分にさえ、そのこだわりが反映される。
誰にどうやって説明したら伝わるのか想像もつかないが、そういった作業さえ妥協なくせざるをえない。Xを名乗る以上はそういった開発者の気迫が果たしてロッドに乗り移るのだろうか。
木下大介にとってのEG X
「EGXを振っていると、まわりの音が聞こえなくなる瞬間がやってくる」
そう語るのはラグゼスタッフの木下大介。
木下 大介(Daisuke Kinoshita) プロフィール
エギの目を通してイカが抱く瞬間が見えるといえば大げさかもしれないが、いわゆるゾーンと表現される状態に自分を持っていくことができる時間が増えたのだという。
ごく一部の限られた本物の道具だけに宿る特異な性能だろうか。必ずしも、ロッドの見せかけのスペックから説明できるものではない。
EGXの特徴について際立っているもの。例えば軽さ。けして軽さを追求し、軽量化に特化したわけではないが、結果として90g前後のウエイトに仕上がっている。
その軽さがもたらすのは、軽快な操作性と圧倒的な感度。
「華奢な感じはまるでしない。むしろ、頼もしささえある」
木下は持った軽さと振った時のたくましさに驚いたという。
「EGXはEGRRと比べて、軽い。軽いというか、バランスがいい。軽さというのは慣れるし、なじむんですが、もう戻れないですよね。持ち換えた時に重いと感じてしまう」
素材の違い。そして、バランスの差。これらはどういった違いとなって現れるのだろう。
「EGXはEGRRの上位機種という位置づけになりますが、味付けというかシャクった感じは少し違います。EGXの方がしなる。しなった先で反発力で戻るロッドが勝手にエギをシャクってくれる。だから楽ですね。これまでは硬質な張りのあるロッドがエギングロッドといったイメージでしたが、そういったエギングロッドは、僕のなかでは過去のものになりました。それよりもラグゼのソリッドのすごさを知ってほしいですね」
手放せないソリッド
EGXはエギングロッドだが、複数のソリッドティップモデルがラインナップされている。通常、ソリッドティップは柔軟で食い込みがよく、繊細な釣りに向く素材のイメージである。昔のイメージだと、食い込みがいいとはいえ、重さやダルさがあるのは否めなかった。
「全然。全然、違います。そのイメージは古いというか、少なくともラグゼのソリッドはまるで違う。いまからいうことは、他のメーカーのソリッドにも当てはまるのかどうか、わかりません。ラグゼにはソリッドという素材を使いこなす匠がいるんですよ」
エギングロッドでソリッドティップ。バシバシとシャクるロッドにソリッドである。もちろん、木下のシャクりも空を切る音が響くほどに鋭く、力強い。
「ソリッドは軽くて、感度がいい。絶対的な感度ならソリッドが上です。パンッと金属的なアタリがでる。正直、もう手放せないですね。サブ的な立ち位置ではなくメインです。僕のなかでエギングロッドはチューブラからソリッドに変わりました」
チューブラよりもソリッドの方が感度に優れている。
「手の感度も優れているのですが目の感度も優れていて、風があってもティップがラインのブレを吸収してくれるんですよ。だから、繊細なアタリを逃さないですね」
もともと水深15mや20mのポイントを得意とする木下。
「ソリッドモデルが出てきてから、ホントにボトムについた瞬間がわかりやすくなった。エギがボトムにつくとティップが跳ねあがるので、すぐにわかる。着底を瞬間的に察知できると、根掛かりを減らしたり、エギのレンジコントロールをタイトに行うことができる。釣果が向上しましたね」
ひとつのシモリがあればポイントになる。目視ができる浅場や潮がクリアな日ならいいが、深い場所や濁っている状況で探すことは難しい。だが、自分だけが知るシモリを見つけられれば最高のポイントになる。
「EGXのソリッドならシモリの存在が深い場所や濁っていてもわかる。流れの変化が感じられますよ」
ティップがソリッドで心配されるのはシャクり感。
「ソリッドだからシャクりが遅れるとか、そういうのはない。シャクった感覚はチューブラとそん色ないです。ダートの距離も一緒ですね」
とはいえ、この世に存在するすべてのソリッドモデルが同じものではないだろうと木下。
「ラグゼのソリッドモデル、いや、ラグゼを手掛ける設計担当者の専売特許なんじゃないですかね、この使用感は」
では、ソリッドとチューブラはどうやって使い分けるのだろう。
「ソリッドの使用割合は8割以上じゃないですか。ほとんどがソリッド。チューブラはしっかりバシバシとシャクるときと、風がまったくないときですね」
正直、好みではあるが、もし、ラグゼのソリッドを試したことがないなら、ぜひ、1度手にしてみてほしいと木下はいう。
89Mというロングレングス
そんな中、89Ⅿというシリーズでは最長のモデルを木下がリクエストしたのは、藻場で藻に突っ込むことなく高くエギを跳ね上げたり、ディープレンジでボトム周辺でもしっかりエギにアクションをくわえるため。
あるいは、低い地磯であっても、ポイントとなる沈み根の場所で高く跳ね上げることで短い距離で何度もシャクり誘うことができる利点を狙ったもの。もちろん、長い分、飛距離に優れる。見えイカが消えつつある今のエギングシーンでは飛距離は武器になる。
エヴォリッジ
木下の使うエギは、エヴォリッジシリーズ。ベーシック、シャロー、デッドフォールの3タイプ。一番出番が多いのはシャロー。
「シャローと名乗ってはいますが、適度にゆっくり沈む、といった意味合いだととらえてほしいです。ベーシックは一般的な他社のエギよりもフォールスピードが少し早いんですね。ラインを張りながらフォールさせる人にはいいんですが、僕はフォール中はフリーフォールというか、張らず緩めずのゼロテンションを理想と考えているのでベーシックではイメージするフォールスピードより速い。もちろん、沖磯やディープ、イカダ、船、急流では出番がありますが、メインはシャローです」
デッドフォールはよりスローに落としたい場合に出番。浅い場所はもちろん、潮止まりや潮が緩い時、また、干満の差が少ない日本海で活躍する。
「好きなカラーは、イセエビレッド、グローネンブツ。赤テープが好きですね」
とはいえカラーは全色を使いこなす。
「そもそもシャローって、一般には3mとかそれくらいのイメージだと思われますが、僕にとっては10m以浅のイメージです(笑)」
メインラインはPE0.6号。PE0.8号はラインが風や流れに流されやすい。一方、0.4号は飛距離抜群でシャクってもいいのだが、根掛かりの回収ができないため、0.6号を選択する。リーダーはフロロカーボン2号1m。春でも秋でもイカの大小に関係なく同じタックルで挑む。
アオリイカとそのシーズン
関西に住む人にとって、日本海と太平洋、瀬戸内海は、それぞれ違う海になり海水温や海流の影響によりシーズンやパターンが変わる。
「日本海は冬に水温が下がるためだと思いますが、春と秋がはっきりしています。どういうことかというと、産卵の時期がズレない。春に産卵するから夏はお休みで秋になると春生まれのイカが釣れるようになる。ハイシーズンは9月10月ですね」
では、太平洋はどうなのだろう
「太平洋は産卵のタイミングがバラバラ。アオリイカは一般に1年で寿命を迎える年魚です。産卵期は一般には春といわれます。ところが和歌山エリアでは真夏に1㎏のイカが釣れたりする。夏になると、秋にコロッケサイズになるであろう小指サイズのイカが見えるんですが、そんなタイミングで1㎏のイカがいるということは、夏から秋にかけて産卵する個体がいる。あるいは、秋から断続的に夏にかけて産卵が行われている可能性がある。8月に釣ったイカが卵を持っていましたからね。だから2月をのぞいて1年中釣れる。1月ごろはレッドモンスターと呼ばれる3㎏超のイカが狙えます。瀬戸内海は太平洋よりも奥まった場所にあり水温が上がりにくいことから春のシーズンが遅れます」
とはいえ近年は日本海でも温暖化の影響か、夏に釣れたり、秋に妙にサイズのいいイカが釣れることもみられるようになった。
和歌山にて
釣り場に選んだのは和歌山県南エリア。この日の和歌山県、南紀串本エリアは水が極めてクリアだった。
「黒潮がきついですね。水は少し濁りが入っていた方がいい。濁りといっても雨の茶濁りではないです。にごりはプランクトンがいる証拠で、澄んだ透明な黒潮の海は水温も不適切だが、エサとなるプランクトンがいない」
休日にあわせた釣行であったが、大潮最終日。潮まわりのいい日であった。もし潮まわりを選べるなら小潮や長潮よりも大きい潮まわりの方がいいという。
「中潮がいいですね。潮は小さいよりも大きい方がいいですが、大潮はあんまり釣れない。それと、太平洋側の話になりますが、黒潮がダイレクトに当たって水温が30度を超えるようだとアオリイカには適しません」
小さな漁港に立つ木下。干潮に向かうタイミングで潮が低い。何の躊躇もなく堤防の先端に陣取った。
「干潮で水が引いているのもありますが、ミオスジを中心に狙う。ミオスジは水が動く場所であり、かけあがりになっていて周囲より深く、イカが移動する時に通る場所です」
あちこち攻めるのではなくポイントを限定した攻め方。そのエリアの1等地を攻め、反応がなければエリアごと即移動のラン&ガンスタイルである。ただし、1投ごとの攻めは丁寧そのもの。漁港では足元までしっかりシャクっている。
「キャストしたら、必ず、ボトムをとりボトムから2mの範囲をキープしつつ足元までシャクリを繰り返す」
基本は5回の連続ジャークをワンセット。ただし、数釣りができる秋はもっと連続でシャクることもあるし、中層や表層、あるいは水面までシャクり上げることもある。
「むしろ足元をしっかりシャクります。堤防の下には基礎となる石積みがあってかけあがりと隠れ家になっているため、ベイトフィッシュが寄っている」
木下のシャクリの基本は、5回程度の連続したスラックジャーク。ラインスラック作り鋭くシャクる。ラインを張らずにたるませるのはなぜだろう?
「ラインをたるませた状態でシャクるとエギの自由度が大きくなり、シャクった時に左右へのダートが大きくなります。ラインを張った状態でシャクるとエギが単調に上へと跳ね上がるだけになってしまいます」
実演する木下。ラインを張った状態でシャクるとエギはただ真上に跳ね上がるだけ。だが、ラインをたるませてシャクると上昇するエギの動きに左右へのダートが加わった。
「エギの移動距離を抑え、短い移動距離の中で長く魅せることができる」
キロオーバーを狙う場合は徹底したボトム攻略。中層を探ることはほとんどない。
漁港に数投で見切りをつけ車で移動。移動の距離は長い。
黒潮の影響や水温、季節の進行を考慮して、10㎞以上移動することもザラ。北上したエリアから南下しながらロッドを振るもアタリはない。
夕マヅメ、目をつけていた本命ポイントの串本港に到着した。しかし、いまのタイミングでは黒潮が効きすぎている。
「大規模な港では必ずしも先端にはこだわらない。例えばこういったイカダを固定するロープにもイカは付きます」
その後、日が暮れるまで堤防の先端やかけあがりなどを攻めるもアタリはなかった。
翌朝、黒潮の当たりが強い串本エリアを見切り、一気に北上。
「朝の潮位が高い潮まわりですね。夜の干潮から上げ潮にかけてイカがシャローに刺してきている予定です。これでダメなら潮通しのいい磯回りに行ってみましょう」
雰囲気はいい。しかし、イカはアタらない。
「昨日からウミガメが騒がしいですね」
行く先々の港でウミガメが2~3匹ほど、あわただしく動き回っている。遊泳力が意外に高く、小指ほどのイカが岸際におびえて固まていたところを見ると、イカにとってウミガメは脅威なのだろう。
「磯回りに行ってみましょう」
大きく突き出た岬の先端に位置する磯。目でわかるほどの流れがある。ワンドには生まれてそう日もたっていないであろう仔イカの群れが見える。フォールするエギに何かが襲い掛かった。アワセると強烈な走りとともにブレイク。
「イカじゃなく魚ですね。ハタ系の根魚かな。根に巻かれました」
切られたことよりもイカの捕食者が元気なことを気にする木下。それまでは仔イカのチェイスもあったのだが、場が荒れたのか反応が途絶えた。その間にも目の前の流れは加速する。やがて流れの中にベイトを追っているイカが見えた。500gは超えていそうだ。
「こういった見えイカを狙う場合、10m以上離してキャストする。そして2m離れた場所でアクションさせ、イカから寄ってくるようにする」
だが、このイカは、一瞬、チラ見するも素通りしてしまった。
「ベイトを追い回しているイカは、エギを追わないことが多いです」
干潮を挟んで上げ潮のタイミング。夕マヅメに入りなおそうとした木下だが、人気ポイントらしくカゴ師が集団でやってきた。時合いにはまだ早いがひとしきりチェックして見切りを決断。
最後に港に寄り、日が落ち、辺りが暗くなるまで粘ったが望むサイズのイカに出会うことはできなかった。
「僕だけかはわかりませんが、今年は春から調子が悪い。でも、秋のハイシーズンは期待したいですね」
1日に自分の体重の2倍の重さのエサを食うというイカ。1週間、10日もあれば倍の大きさに成長する。夏の途中に小さかったイカたちも、今頃は見栄えのいいサイズに成長していることだろう。