今江克隆のルアーニュースクラブR「オヤジライブサイト!? アクティブライブサイト!? 残酷で絶望的な現実 〜TOP50野村ダム戦報告〜」 第1235回
ルアーニュースクラブを書き続けてもう30年以上になるが、今回ほど試合報告(TOP50開幕戦・野村ダム)の記事を書く気になれなかったことはない。
それは、2025年開幕戦で53人中46位予選落ちに終わり、酷い落胆によって書く気になれなかったのではなく、「書けること、言い訳することすら何もない」のだ。
今のこの気持ちは、一度も過去体験したことがない複雑で困難なものだ。

プリプラから絶好調だった「ハドルスイマー」の2インチのジグヘッドリグ。1.8gヘッドでは直前で効かなくなったが、0.9gにすると喰い出したが…

勝負ルアーは、公式練習直前から急に増え始めたギル喰いのメスを狙った「ハドルギル」のモリケンリグでのライブサイト。だが、本番ではライブのプレッシャーでメスを見つけられなかった
持てる全力を発揮したが…
この開幕戦に備え、昨年の筋挫傷経験からオフシーズン中も1年間ほぼ毎日フィジカルトレーニングを続け、体調も、気持ちも、今の自分が出来るMAX状態に整えたうえで、開幕の日を万全で迎えることができた。
そして全身全霊を賭け、試合中も集中力が切れたり、泣き言を口にすることもなく、ミスジャッジやバラシもなく、最大の懸念だった右足筋挫傷の影響もほぼなかった。
そこまで今、持てる全力を発揮してなお、自分は予選すら通過できなかった。

昨年開幕戦での筋挫傷を経て、1年近く毎日トレーニングを欠かさず、10㎏の減量と万全のフィジカル、メンタルで挑んだはずの開幕戦。だが、回せる脚を作っている間にTOP50若手ライバーの技術進歩は想像以上だった
だが幸か不幸か、イマカツチーム初の本格派ライブサイター(略称・ライバー)藤川温大プロの加入によって、客観的に自分の敗因と現在位置を理解することはできた。
そこにあったのはTOP50における歴史的ゲームチェンジャーとなったライブサイト技術の残酷すぎるほどの技術成熟と主戦力化、そしてもはや絶望的にさえ思える年齢的フィジカル差、世代間技術差だった。

ライブで500g前後のキーパーは手にできたが、それでは勝負にならない。ビッグフィッシュを追えば追うほどライブ技術の差が明確に…
「こいつにはもう勝てない」の正体
試合後、デジタルネイティブ世代の藤川温大プロとの会話によって、自分が目標にしていたライブサイト技術との決定的な違いと差を理解した時、2年前、藤田京弥プロと対談した折に感じた、バスプロ人生で初めて「こいつにはもう勝てない」と漠然とした感覚の正体が、ハッキリと分かった。
自分は41年のキャリアで、ほぼ全てのテクニック、全てのルアー、全ての湖で表彰台、もしくは優勝を勝ち取ってきた。
シャロー、ディープを問わず、誰とでも、どのタイプの湖でも互角以上に戦える、いわば他人の土俵でも、全ジャンルで勝負できるプロを目指し、それを成し遂げてきた。
だからこそ、引き出しの数と経験実績値は、間違いなく誰よりも豊富な自負はある。
だが、ライブソナーの登場によって、その経験値は今は逆に邪魔にさえ思える。
5年ほど前からトーナメントを席巻し始めたライブソナーテクニックに関しては、自分はむしろまだ中級者レベルの経験値なのに、逆に他の引き出しの多さと過去の高い経験がその修得の邪魔をし、何もかもが中途半端なものになってしまっているということだ。
だが、最初からライブソナーありきでスタートしたZ世代のプロにとっては、藤田京弥プロや青木唯プロ、そして海外プロの破竹の活躍を目の当たりにしたことで、それが最初にマスターすべきトーナメントでの最低限であり、同時に最強テクニックとして最初に修得することが必須化されているのだろう。
「アナログ」「ブラインド」
ライブ前の時代であれば、TOP50で初参戦の新人プロが2年目に残留できる確率は極めて低かった。
だが、今はTOP50参戦初年度からトップ争いをする新人プロが決して珍しくはない。
その全てがライバー世代といっても、もはや過言とはいえないだろう。
事実、今回の開幕戦も表彰台は若手ライバーたちが独占した。

表彰台の全員が若手ライブの達人。優勝の梶原プロはさらにその先を行っていた
優勝した梶原プロはライブを切って挑んだと語ったが、彼のボートのライブ装備は、今回、私が見た限り最強装備であり、逆をいえば並み居るライバー達に、練習時に把握したスポットとライブ技術を本番ではプレッシャーになる音波を切り、ライブ同等の技術で抜け出したともとれる。
梶原プロが「ライブ音波を切った釣り」のスタイルを「アナログ」とはいわず「ブラインド」といった時に、それは単なる「ライブ機器非搭載」での昭和アナログスタイルでは決してないのだと見ていて感じた。
それほどまでにライブソナーでの釣りが十代から当たり前に身体に染み込んでいるのが、デジタルZ世代の驚異的な強さなのだろう。

ライブ音波を消してブラインドで優勝した梶原プロ。だが彼のボートはTOP50最強ライブソナー装備(4台以上)でもありライバーとしても最強レベルにある。ライブ非搭載(アナログ)ではなく、 すでに彼はNEXT LEVELにいるのかもしれない
神業的エレキ操船技術
だが、デジタルネイティブである彼らの強みはそれだけではない。
自分が「もう自分にやれることはないのかもしれない…」と思わせた最大の壁は、装備ではなく「神業的エレキ操船技術」なのだ。
良くも悪くもイマカツには「昭和スタイル」のプロがほとんどで、ライブサイトに関するガチレベルでの情報をチームで共有できる機会は、今までほぼ無かった。
いわば、聞きかじりやウワサの範囲での試行錯誤、自主トレだったのだ。だが16歳からライブを導入し、マスターズで活躍してきた根っからのライブサイターである23歳の藤川プロが、開幕戦で全イマカツプロスタッフが予選落ちした中でいきなりの優勝争いに加わった事実は衝撃的だった。

TOP50新人ながら優勝に絡む活躍を見せ、9位入賞した藤川温大プロ。ビッグフィッシュ賞をライブで「ジャバロンスーパーリアル110」で喰わせたのはなんと水深12mだった

藤川温大プロが3日間使っていたのは、なんと「ジャバロンスーパーリアル110」の1.8gジグヘッドリグとネイルリグ、「レイジースイマー3.9インチ」だった
だが、彼から「教えられた」、彼が実践していたライブサイト技術は、薄々分かってはいたが、自分にとってもはや絶望以外の何物でもない純粋な「フィジカル差」による超精度の機械的操作術、超忍耐の操船術に他ならなかった。
装備の豪華さや設定程度では差は埋めれず、結局は技術の差はそれを操作する体力、気力と脚力、集中力、自信であり、ライブサイトはバスフィッシングを勘や運、経験や地の利に左右されがちだった「釣り」から、人間側の機械的操作力が大きく影響する「競技」へと昇華させてしまったようにさえ思う。
藤川プロがライブサイトでこだわっていたのは装備や設定ではなく、柔軟で微妙なフット(エレキ)操作のために靴の材質にまでこだわることと体幹、エレキ、ボートの一体感覚だった。
Z世代の「アクティブライブ」
先に藤田京弥プロとの対談で、何かシークレットがあるかと突っ込みまくった結果の回答が、「根性です」、「しつこく延々バスを追い回す執念です」と、あたかも昭和根性論のような回答で、「わざとはぐらかしてるのか???」と当時は思っていたが、藤川プロの具体的な説明は、まさにそれを完璧に裏付け納得させるものだった。

試合後、藤川プロからいろいろと本当のライブの話を聞かせてもらえた。隠すことなく話してくれたことで、藤田京弥プロとの対談でイマイチ理解できなかったことが腑に落ちた。と、同時にもはやどうしようもないような絶望を感じた
圧倒的アスリートのDNAを受け継ぐ彼をして、3日目は脚がパンパンで追いつけなかったといわせるほど、ライブサイトはもはや「釣り」という曖昧なカテゴリーを超えた体幹的スキル差も重要なスポーツと化してきた気がする。
それはもはやモニターをガン見してバスを見つけたら投げるだけの「オヤジライブ」ではなく、まさしくZ世代の「アクティブライブ」なのである。

アクティブライブでは風景やラインを見ている時点で負けなのだ。すでにバスを見つける手段としては終わり、見つけさせる手段、追わせる手段、最後は導いて喰わせる手段の操作勝負なのだ
この実際のライブスキルに関しては、今月20日発売のルアーマガジンリアルファイトで、自分と藤川プロの両船に同船取材した記者が、その歴然とした差と理由について具体的に解説しているので、興味のある人は私と藤田プロとの対談と合わせて是非、読んでみるといいだろう。

予選は自分に乗ったルアマガ記者は決勝では藤川温大プロに同船。自分とリアルライバーの絶望に近い差を実感したという。決勝2度のエンジントラブルがなければ表彰台は獲得できていたかもしれない
自分が今、絶望している気持ちがよく分かると思う。
数年前、ライブスコープで桧原湖戦において表彰台を獲得した時、少しは追いついたかと思ったが、それはローテーターを使った最も優しい「オヤジライブ」であり、TOP50に昇格してくるプロの若さとジャンルから見ても、もはやライブサイトはZ世代に対抗できる「アクティブライブ」を身に付けて初めて価値を成し、並のライブ技術なら観客から見てカッコ良いものでもないうえに、予選すら通過できない惨めな現実なのだ。

「オヤジライブ」をできるようになって喜んでいた自分が恥ずかしい。時代はオヤジライブとは次元の違う「アクティブライブサイト」の技術勝負に突入している。もはやライブで20代、30代に勝てる50代はいないかもしれない
昭和アナログスタイルの活路は?
では、ライブソナーを搭載しない昭和アナログスタイルに活路はあるのか?
少なくとも霞ヶ浦以外で表彰台に絡むことは年々困難になるだろう。
今試合後、河辺プロや小森プロから「今江はライブしない方が絶対成績でるよ」といわれた。
確かに笑える話だが、1年かけて坂を上り続け、脚を作って挑んだこの開幕戦で、予選2日目、ノーフィッシュで迎えたラスト1時間、ライブを諦め一度も行くことのなかった大好きな最上流に入り自分本来の釣りをした途端、2本のグッドキーパーが簡単に釣れてしまった。
恐らくあと1時間早ければリミットは達成し、予選は通過しただろう。

予選2日目、ラスト1時間を切ってライブを諦め、初めて自分らしい最上流のリアルサイト場へ。30分で2尾をキャッチしたが時間切れ。2時間早く入っていたら予選は簡単に通過できたかもしれない

ラスト20分を切って大逆転を狙いリアル最上流の堰下まで行ってステルス(スイマー)勝負。だが、すでに時間が足りな過ぎた。自分らしい釣りが有効と分かりながら、何としてもライブZ世代に一矢報いたい気持ちの狭間で揺れた
だが、自分は今の最強テクニックであり、これからも間違いなく時代を席巻していくであろうライブサイトから逃げてトーナメントライフを終わりたくはなかった。
そのための努力も人並み以上にしてきた。もし仮にライブを捨てて自分のスタイルに戻せば、得意なリザーバーでサイトやビッグベイトの季節であれば、1試合ぐらいは予選は通過、上手くいけば上位入賞もできるかもしれない。
だが自分の肌感として、年間や数年間を考えた時、アナログスタイルでは毎年せいぜいうまくいってシングル前後、現実20位前後が限界だと感じている。
表彰台、優勝は、今後この壁を越えなければ狙って取ることは、もう不可能な時代になったと思う。
年間シングル入賞は、選手の立場から見れば素晴らしいことだが、その程度では一般バスアングラー間では名前さえ覚えてももらえないのが、TOP50の悲しい現実なのだ。
ものすごく頑固で不遜な態度かもしれないが、全ルアー、全テクニックで全時代の壁を越え、日本のトーナメントに新しい夢と感動を与えることを目標としてきた以上、トーナメント人生最終章にしてぶつかった最後の壁を越えずに逃げたくはない。
トーナメント人生の最後に表彰台の若手ライバー達と並んで、「アクティブ・ライブサイトです!」と胸を張りたい想いだけが、今は自分をギリギリ支えてくれている。
まだまだ1試合落としただけと、何とか自分に言い聞かせ、自分にしかできない何かを今から模索し、最後まで足掻き続けたいと思う。