2024年、アピアが仕掛けている。
そんな、ただならぬ勢いを感じさせる2つのルアー「BALEINE(バレーヌ)160FL」と「MAYOL(マイヨール)70SL」。
【新重心移動システム搭載/濱本国彦監修】アピア注目の2024年新製品「BALEINE(バレーヌ)160FL」というルアーのこと
特長はいずれも先に配信した記事の通りであるが、その共通点は他ならない「リニアエンジン(PAT.P)」という重心移動システム。
その革新的な機構はどんなもので、いつ、どうやって、そして何のために生まれたのか。知ることでまた見えてくるものがあるのではないか。…そこで、無理を言って開発に携わったアピアの開発陣に「リニアエンジン(PAT.P)」についてお話を伺った。
「リニアエンジン(PAT.P)」という重心移動システム
そもそも新しい重心移動システムである「リニアエンジン(PAT.P)」の特長は、大きく2つあるという。
1:飛距離
2:泳ぎの安定性
そして、もっと言えばその構造上“様々なサイズのルアーに組み込むことが可能”というのも、その特長の1つであると。
①:飛距離
バレーヌといえば濱本国彦氏のプロデュースで先にラインナップされている「バレーヌ125F」が知られており、そもそものリニアエンジン開発のキッカケはバレーヌのビッグサイズ160mmのサイズがほしいという濱本さんの要望から。
新サイズ160mmの開発に当たり、開発当初から重心移動システムを開発するという発想はなく。とりあえず製作側の常套手段として単純に等倍、シルエットや内部構造はそのままにサイズアップしたものを試作。
バレーヌは製作陣も認めるほど、その完成度が高いプラグ。そのため等倍で大きくなった試作品を試しに泳がしてみた所…十分に泳ぐ。サイズアップしたことでよりダイナミックなヌメヌメとしたナチュラルなアクション、操作を加えればダート系のアクションまでも演出、“泳ぎ”だけ見ればその完成度は極めて高かった。
ところが…まったく飛ばない。
内部構造もそのまま、ということで元々バレーヌに内蔵されている従来の重心移動システムもそっくりそのまま大きくして移植したものの、意に反してまったく飛ばない。そこであれこれ仮説を立てて検証していくこととなった。
検証していく中で見えてきたのが「空気抵抗」という壁。
それもそのはずで、等倍で大きくなったルアーはキャスト時に風を受ける面もその分大きくなり、飛行姿勢が安定しない。それが1つの“飛ばない”大きな要因。
単純に考えれば、シルエットを見直すこと=空気抵抗を受けにくいシルエットにすることが一番の課題解決への近道ではある。…が、泳いでしまうという事実。シルエットを変えることで、そのアクションが破綻してしまっては本末転倒。
シルエットを変えたくない、でも従来の重心移動システムでは飛ばない。
その不可能を可能にする選択肢として、「内部構造を変える」ということを考える。
ここでも大きな壁が立ちはだかる。
それは特許の関係。重心移動といえば、名だたるルアーメーカー各社がこぞって開発してきた歴史があり、複雑に特許が入り組んでいる。それらをクリアするためには、より複雑な構造にする必要があると。
シルエット自体は秀逸で既に完成されている状態、そこにより複雑な構造を当て込むことになると、本来の機能の欠損が起きかねない。そこで、まずは内部の移動する重心を従来のボール=シンプルな形状に設定。
次に、なぜ飛ばないのかを改めて検証していくフェーズに入る。ご存知の通り、従来のシステムはレール上をボールが移動する構造でキャスト時は後方へ移動し、着水→泳ぎだす際に前方へレールを伝って移動して“段差”にハマり磁石で固定されるというシステム。
仮説を立てて検証を続けていく中で、このシステム自体に問題がある。そしてその“段差”に問題があることが明らかになっていく。
そもそも、よく飛ぶルアーとはどんなルアーなのか。製作陣は「飛行中に姿勢が安定しているルアー」であるとの仮定を立てる。
つまり、ルアーが大きくなることでウエイトも大きくなり、そこに従来の段差レールがある。ここで考えるのが“力の方向”と“力のロス”。キャスト時、後方に勢いよく弾き出されるはずのウエイトボールが段差によって力が働く方向を変えられてしまい、力がロスされてしまう、結果として飛行姿勢がブレて安定しない。
これこそが試作で作った160mmが飛ばなかったもう1つの理由。もちろんサイズが小さい120mmのオリジナルであればそもそも空気抵抗は受けず、また全体に極めてバランスが取れており、さらにサイズが小さい分ロッドを振り切ることができる=飛距離を出せる。
その黄金比が大型化することで破綻する。
そこで考えたのが力の方向を一定にし、極めて力のロスの最小限に留める「ストレートレール」。そう、一直線にスムーズにウエイトが移動し、先端部分を段差ではなく磁着して固定させるという構造。重いウェイトを長い距離移動させることで、キャスト時は後重心となり飛距離が向上する。それこそが「リニアエンジン(PAT.P)」のキモなのである。
②:泳ぎの安定性
もうひとつのポイントが「多弾配列」。
ご覧の通り「リニアエンジン(PAT.P)」はウエイトボールが先端の衝撃を和らげる樹脂ボールを含めると計7つ積み込まれている。
なぜ多弾配列なのか…第一の理由は飛行姿勢。
放物線をイメージすると、初速からグングンと力が加わって勢いよく飛んでいく状態と、以降失速して落ちていく状態に大きく二分される。勢いよく飛んでいる状態であれば、その推進力から例えば大きなウエイト一つでも比較的飛行姿勢は安定。一方、失速して落ちていく状態のときはバランスを失い安定しない時がある。これは、重量が偏ることで重さのない部分が抵抗を受け、振動などを発生させることが起因している。
この現象をなくすべく搭載されたのが多弾配列。飛行中に重量を分散させることで、失速後も飛行姿勢を安定させる狙いがあり、結果その飛距離に貢献する。つまり飛距離の後半の“伸び”を良くする機構。
多弾配列という機構を採用した第二の理由は“泳ぎの安定性”。
いくら飛ぶシステムであっても、ルアーである以上泳がなければ本末転倒。そこで後ろからマグネットを固定するという方法を採用し、極めて高い泳ぎの安定性を確保。
例えばバレーヌ160FLだと、強い流れの中でもそのアクションが破綻せず足元までしっかり泳ぎ切る。…それも多弾配列による恩恵だという。
ストレートレール×多弾配列の妙
つまるところ「リニアエンジン(PAT.P)」の何が画期的なのかというと、ストレートレールであり、多弾配列であり、それらが組み合わさることで相乗効果を生み、極めて飛行姿勢が安定する=バツグンの飛距離が出る。そして泳ぎも安定する。
最後に「リニアエンジン(PAT.P)」の今後について伺うと、レールの幅とウエイトボールの比重や大きさを調整することで、もっともっと様々なルアーに応用することができると。
これが第三の特長であり、既存ルアーへの応用や不可能と思われていたルアーの開発など…まだまだたくさんの可能性を含んでいると言える。
「BALEINE(バレーヌ)160FL」と「MAYOL(マイヨール)70SL」という革新的なルアーは考え方次第ではその最初の1歩に過ぎない。今後もアピアから目が離せない。
アピア (APIA)