“伝道師”であり”開拓者”。
マダコのルアーゲーム「オクトパッシング」や、いまや全国的ブームとなったサワラゲームにおける「ミノーのジャーキングパターン」を世に出し、広めてきたアングラー。まさに中川俊介という釣り師にはうってつけの言葉だろう。
中川俊介という釣り師
私が初めて出会ったのはたしか2016年頃。初夏に行ったマダコ釣り取材だ。当時のマダコ釣りといえば太糸の先に模造ガニを吊るし、手で操るというもの。いわゆる、漁の延長。それが主流だった。しかし…。
中川さんが取材艇に持ち込んだのは、ベイトロッド+ワーム素材のマダコ専用ルアー。さらにその釣り方と、すべてが見慣れない光景だった。
アンダーハンドで軽くキャスト。ロッドを握る手の中指でリールのハンドルを回し、ラインテンションを調節する。海底を探り、アタリを感知し、少しの間を置いて合わせを入れた。まるでロックフィッシュやブラックバスを狙うような釣り。開始からものの数分で本命を手にしてみせた。
1パイだけなら偶然で済ませられるが、次、また次とマダコを釣り上げていく。これには操船するマダコ釣りのベテラン船長も舌を巻いた。それくらい当時としては異例中の異例といえる光景だった。
舞台となった三原周辺は瀬戸内の激流渦巻く海域。海底の起伏は激しく、岩礁に敷石と超が付くほどのハードボトム。ルアーで釣ることはおろか、根掛かり回避に遅れを取る竿釣りなどもってのほかとされていたのだ。
実際に中川さんもこのゲームの模索段階では「ルアー? 竿なんかでタコが釣れるか」と多くの釣り船や漁師に揶揄されることもあったという。それでも自身を貫いた。単に楽しいから使うのではない。ルアーだから、竿だからこそ釣れるのだと信じ、圧倒的な釣果でそれを証明してみせた。
この取材を機に、完全に世の潮目が変わった。翌年、さらに次の年。海へ出るとマダコ釣りの船は大半が竿釣りに、そしてその先にはルアーが結ばれていた。漁との間にあった釣りが「ゲーム」に変わった転換期だった。
中川さんの功績で忘れてはいけないのがもう一つ、サワラゲームだ。ブレード付きメタルジグを使用する釣りに「ブレードゲーム」と名付けた張本人だ。そのサワラゲーム、シラスなどの小型ベイトを偏食する時期の攻略がとくに難しく、難攻不落とされていた。そこへ一石を投じたのが中川さんだ。
いわゆる”マッチザベイト”は完全に無視。セレクトしたのは11.5センチのミノー「メガバスX80マグナム」。キャスト後、竿をあおりながらリーリングするハードジャークがこのシラスパターン攻略にテキメン効いた。ヒラを打ちアクションが生むフラッシングと波動が、サワラを狂わせる。シラスのナブラ撃ちにオープンエリアでの誘い出し。どちらにも効果は抜群。苦戦する船団のなかで、一人、目立った釣果を叩き出していた。
いまでこそサワラゲームにおけるミノーの有効性も叫ばれるようになったが、当時はメディアへの露出は皆無のメソッドだった。この後しばらくしてメーカー各社からサワラ用のジャークベイトが発売されるようになったのは周知の事実。中川さんはまさにその釣りの先駆け的存在である。
これらのブームを起こし、近年は外海のケンサキゲームにも注力中。今後は釣り界にどんな発展をもたらせてくれるのか。中川さんの動向に注目したい。
瀬戸内を中心に活動するフィッシングライター。