【レオン北米釣り紀行/1996年〜1999年カリフォルニア】Vol2:パシフィックベイビーと黒人ギャングと
騒然・恐怖・失笑
すでにかなりの満足感はあるものの、あまりに簡単に釣れた為に更に検証を重 ねるべく、再びロッドを手にすると、かすかにエキゾーストノイズが聞こえた ような気がした。
不安になって振り返ると来ている。こちらへ無かって車が…。
凝視すると、どんどん近づいてくるその車はアメリカンフルサイズのオンボロセダンで、遠目にもボディのカラーがハゲハゲで「まともじゃない」事が見て取れた。一瞬にして恐怖を感じた俺は急いで逃走準備に掛かる。
飲み物を入れた小型クーラーを空いた窓から投げ込み、ロッドとタックルボックスを抱えて乗り込もうとすると、その車は私の車の前方をさえぎるように停 車し、野太い声でなにやら叫びだした。
目線を合わせないようにしていたのだが、一声で黒人だと判るザラザラした声質だ。俺が反応せず車に乗り込もうとしたせいか、運転していた男が車を降りこちら へやってきて、あろう事か「アーユー、ポリスオフィサー?」と聞くではないか。なんだ。意味が分からない…。
半分ちびっている俺が「ノー!アイムジャストフィッシング」とショボい英語 で答えると、車に残っていた他の3人ほどの黒人達が「ヒャッハー!」と奇声を上げ、車を降りてトランクから何や取り出す様子。
げ、何をされるんだ?ロープか?ショットガンか?どうなるのだいったい?半ばあきらめ半分かつ生きた心地のしない俺を見つめながら、運転をしていた 大男の黒人がニヤニヤ笑いながら「で、釣れたのか?」と聞く。
返事もままならずモゴモゴしていると、トランクへ廻っていた3人がなにやら ごっそりと抱えてこちらへやってくる…。ありゃあ?釣り道具ではないか!な、何でだ?釣具を持っているにも関わらず、彼らが何者なのか一瞬では判断つきかねた。つ まり恐怖がそうさせた。
よく見ると他の3人は体は大きいものの、どうやら中学生くらいの年齢の様子…。そして大男はこう言った。
「俺たちもそこで一緒に釣っても良いかい?」「お前がポリスに見えたので確認したのだが、釣り人で安心したよ」と…。
何の事はない。釣り好きの黒人オヤジが息子達を連れて釣り来たのだとそのセリフで理解し、腰が抜けるほど安心したらわきの下が冷や汗でいっぱいだった。驚くぜ、実際。何にも無いだだっ広い空き地で、おシャカ寸前のオンボロセダンに乗った黒人四人。秘書女史は「黒人に近寄るな」「歩行者に近寄るな」「オンボロ車は避けて通れ」なんて、いつも俺にすっぱく注意をするし…。
ともあれ 「釣らないのか?帰るのか?」 「ココは良さそうだな?」 とニコニコと話し掛けてくるので、(この笑顔がさっきまでは笑顔には見えなかった)
「いや、チョッと喉が渇いたので…」 (喉も渇くわな、そりゃあ)と、言い訳をし、ギャングと疑った自責の念もあって 「コーク飲むか?」 と差し出したら 「おお!サンキュー」 と素直に手を出してきた気の良いオッサンだった。
安堵。
彼らがめいめいタックルを準備して、塩漬けの死にイワシを餌にぶっこみ釣りを始めたので、コーラを飲みながらしばし観戦していたが一向に釣れる気配が 無い。あれ、魚居ないか?と、俺も再開するとわずか2投で先程のより少し小型がヒット。難なくキャッチしてリリースすると「おお、何で逃がすんだよ!くれよソレ!」 と言う。
レギュレーションがあるだろうと俺が言うと、ハッ!ソーファッキンワッツ。ソレがどーしたノープロブレムときた。困ったもんだ。
俺が立て続けに釣る間に彼らは一匹も釣れず、さすがにあせったオヤジが教えを乞うてきたので、同じリグを4人につけてやり、少しのレクチャーをしてやる。なかなかみんな筋が良く、ソイのような魚や、キャリコや、ヒラメの小さいの をそこそこに釣って大はしゃぎだ。
半日近くそうやって遊び、他に邪魔も入らず楽しく過ごしたが、しかし、備えあれば憂い無しとはいうものの、俺の大きな勘違いは自身を数時間に渡って苦笑させ続けるだけの出来事であった。
まだまだ「アメリカ素人」の俺である。ちなみに、前回のストローハットはメックスと間違われて適わないので、今回は本格アウトドアウェアに身を包み、その上にテンガロンハットをかぶっていたのだが、コレをオヤジはカリフォルニア州警察の帽子と見間違えたらしい。
1998年 トーランス・カリフォルニアにて
第三話へ続く