【レオン北米釣り紀行/1996年〜1999年カリフォルニア】Vol1:そして旅人はサンディエゴで逮捕された
前号でインクステレビの新番組「レオンの深釣り堀」がスタートしますとお知らせしました。
そして番組収録をする際に視聴者の皆さんから「お題」というか様々な「ご質問」を頂くわけですが、スタート当初とあって、どうしてもお題の内容が時代を遡らねばならない性質のものが1〜3まで続いております。
…で、自身数十年を改めて振り返って資料などをチェックしているわけですが…。ちょっとですね、その資料の中に皆さんにも見て頂きたいものがあるのです。それは20〜23年前頃に、とあるHP用に書き下ろした僕のエッセイ集であり、おおまかには番組内で手短に振れたいくつかのエピソードの本編のような内容の言わば「釣り紀行文」です。
そしてこのエッセイは書籍と違ってWEB文章なので、インターネットの深海奥深くへ沈み込んでしまい、すでに人目に触れるようなことも無くなっております。したがいまして、新番組と合わせてこれらのエッセイも同時にお楽しみ頂ければと思い立ったワケです。
ということで手前味噌ではありますが、今回からひとまず5作をチョイスして隔週5号連続でお届けしますので悪しからずよろしくお願いします。
レオン 加来 匠(Kaku Takumi) プロフィール
【レオン北米釣り紀行】1996年〜1999年カリフォルニア
第一話:そして旅人はサンディエゴで逮捕された
第二話:パシフィックベイビーと黒人ギャングと
第三話:レイクキャステイク前編 ボブ・クルピとクローダッドと
第四話:レイクキャステイク後編 Lower巨魁の揺らめき
第五話:レイクキャステイク結末編 Upperリザードとバスとコヨーテと
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珍しくおかしな天気だった。
カリフォルニアは日本と違って四季がほぼ無いに等しい。毎日毎日数ヶ月も良い天気が続き、山が遠く、高い建物が少ないせいで馬鹿みたく青い大きな空が広がり、半年も住んでいると何やら自身の中で人間の質が変っていくような気さえしてくる。「情緒」に異変をきたすのだ。
こんな環境の中で育つと繊細な感情は生まれにくいと思わざるを得ないほどだ。だがこの日は少し違っていた。空は重たくどんよりと沈み込み、何かを暗示しているような気さえした。
そろそろ住み慣れてきたロスの隣町「トーランス」にあるワンルームのアパートメントの中で釣り支度を終え、会社所有のフォードの小型車へタックルを詰め込み、かねてより計画していた「国境の町での釣り」を実践すべくイグニッションキーを廻した。
もうすでに違和感の無くなった左ハンドルに手を伸ばし、ルート5を南下する。
目的地はサンディエゴだ。
ロス周辺は入江が無くてのっぺりとした海岸線が続き、サーフが多くてところどころにあるマリーナ周辺の釣り桟橋か、切り立った崖を降りてのゴロタ浜の釣りしかできなかったが、2ヶ月ほど前に現地スタッフと観光で訪れたサンディエゴでやっと複雑な海岸線を形成している場所を見つけたのだった。
大きな入江と小さな入江がいくつも重なってできており、深い入江にはショートカットのために最近できたばかりらしい橋もいくつか架かっていた。
事前にインターネットで仕込んだ、目的地までのマップをサイドシートに広げたまま、取り敢えずは2時間半ほどルート5をひた走る。
一番広いところでは片側6車線もある。郊外へ出ても4車線のままだ。意外に皆スピードは出さない。時速70マイル(95キロ位)平均の速度で走っている。空模様はともかく、まずは快適なドライブだった。
郡が変わり、サンディエゴが近くなってくると、奇妙な道路標識が目に付く。三角で黄色地の注意標識だが、黒で「子供の手を引く婦人」をかたどった絵が描いてあるのだ。
フリーウエイである。日本で言う高速道路でもある。まったく奇妙な「絵」である。こんなところを人が横断するのか?どうやって? といぶかしむが答えが出るはずも無い。
後日わかったことだが、年間数十万人も密入国するメキシコ人が、パトロールの目をのがれてしょっちゅう横断するのだそうな。当然、死亡事故が多発する…。
日本の高速道路の山間部でよく目にする「鹿や狸注意」の標識と同じ事だが、何せ相手は人間だ、堪ったものではない。道理で皆ゆっくりと走るはずだ。
途中ドライブインに立ち寄りドライブスルーでハンバーガーを注文するが、コレがマイッた。凄いメキシコ訛りで何を言っているのか良くわからない。相手にしてみればこちとらは凄いジャパン訛りなのだろうが。
会話がすれ違ったまま、その売り子は憮然とした表情で商品を乱暴に渡してくれた。
怒ってみても仕方が無い。
開けてみると注文したもの以外に何かが入っており、取り出してみるとナチョスだった。マクドナルドで言うと付け合せのポテトと同じか?結局コレ(セットもの)が解らず話がすれ違っていたのだな?と一人ごちて、パクつきながらドライブを再開する。
ハンバーガーはなんとも不思議なメキシカンスタイルで、味を表現しようにも適切な言葉が見つからない。辛味だけで味の薄い冷やし中華がパンに挟んである様な、とても2度食おうとは思えない代物だった。