今江克隆のルアーニュースクラブR「奇跡の復活!TOP50弥栄湖〜最終決戦を赤裸々レポート〜」の巻 第1075回
奇跡→絶望→奇跡
ここからは、にわかに信じられない話になる。
このキロフィッシュは、その後、ライブウェルに入れたわずか5分もたたずして腹をみせ、黄色く脱色が始まり、10分後には瞳孔が開き、目は完全に金目になっていた。
口腔内にジグは入っていたが呑まれたわけではないし、出血や深い傷も一切ない。
水深がボトムで7mほどだったので、裏返った瞬間に即座にエア抜きを一発で完璧に施し、「Gリキッド」既定量と酸素スプレー、「O2Power」2個を入れ、手を尽くしたが、みるみる黄色く脱色し、瞳孔はさらに金色に開く一方だった。
そして手を尽くした15分後、帰着30分前、「ウソやろ…あかん…死んだわ…」と取材艇に力なく伝えた自分がいた。
先ほどまでともに興奮していた取材カメラマンの、同情するような表情が自分をさらに惨めにした。
まったく死に至った理由は思い当たらない。
強いていえばやや強引なファイトによるショック死なのだろうか……この時点で、もはや完全死魚と少なくとも自分は思っていた。
その絶望の事実を振り払おうと、再びロッドを手にし、必死で投げるも気持ちは入らず、もはや奇跡は2度起こらないことを理解していた。
今にして思えば、よくここでもう一度ムダを承知で蘇生処置をしようと思ったものである。
帰着会場が近かったことも幸いした。
すでに死体と思えたバスをライブウェルから取り出し、気付け薬として「Gリキッド」を口腔内に大量に掛けた。
「Gリキッド」は含有塩分が高いため、エレキ艇のような小さなライブウェルの中に濁るほど大量に入れると「塩水化」し逆効果になる。
だが、その効果は七色ダム戦の時に理解していた。
次にボートから身を乗り出し、バスを水平に両手で支え、エラを開いて前後に「Gリキッド」をすすぐように強めにゆすり、新鮮な船外の水をエラに通した。
不思議だが、過去の経験からライブウェルの中より船外の湖面の水が蘇生には効果がある。
同時に、効果は不明だが、過去何度もやってきたバスの心臓部分を小指と薬指ではさんで優しくポンプアップする心臓マッサージを併用、この過程を2〜3回、「頑張れ!眠るな!起きろ!」と叫びながら繰り返した。
どれぐらい時間がたったのか覚えていないが、もう時間切れ寸前と思った瞬間、バスの体がビクンっ!と、一瞬だが確かに動いた。
「まだ生きている!」、だが帰着まで時間がない。
あとは天に祈る気持ちで「Gリキッド」適応量のライブウェルにバスを戻し、エアレーター全開、「Gリキッド」の適正濃度が薄まらないよう少しずつ継ぎ足しながら帰着へと急いだ。
すでに「Gリキッド」は丸々1本強を消費していたが、予選落ちした青木(哲)プロが2本授けてくれていたことが幸いした。
帰着の列に辛うじて着いた直後、祈る気持ちでライブウェルをあけ、エアレーターを止めて確認した時、目を疑った。
「ウソやろ…生き返ったわ……」。
そこには明らかに黄色から黒く体色が戻ったバスが、ギリギリだが姿勢まで保っていたのだ。
35年以上、1度しか完全デッドをだしたことはないが、この臨死状態からの復活は過去にも経験のない本当の奇跡の復活だった。
年間ランキングTOP3に!
最終日決勝、1196g、この1匹が最終戦5位入賞、そして8シーズンぶりの年間TOP3復活へと自分を導いてくれた。
もし、このバスが死んでしまっていたら、総合成績は10位前後、年間は8位前後になっていた計算になる。
だが、表彰よりもはるか前、このバスの心臓が再び鼓動し始めた瞬間、自分はその時点で自信、責任、成績、執念、そして表彰台、その全てを取り戻せた予感があった。
コロナ全戦中止から丸1年のインターバルを経て、過去に例のない過密スケジュールで開催された2021年TOP50シリーズ。
その最終戦、総決算としてこの1匹のバスは、バスの命の重さと、自分に今後歩むべき道を示してくれた気がする。
最後の最後、そのもう一つ最後まで、諦めなければ奇跡は起こることもあるのだと。